バックパッカー旅で変わった「ふつう」の感覚【私の実体験】
はじめに:旅に出る前の「ふつう」
私が初めて長期のバックパッカー旅に出る前、自分のなかにいくつかの「ふつう」がありました。それは、毎日決まった時間に起き、効率を重視して動き、清潔で便利な環境を求め、将来のために計画を立てて生きることです。多くの情報に囲まれ、「こうあるべき」という社会の常識に無意識のうちに縛られていたのかもしれません。
特に、大学を卒業し、これから社会に出るという時期は、将来への漠然とした不安と期待が入り混じり、周囲の「ふつう」のレールから外れることへの抵抗も少なからずありました。そんな私がバックパッカー旅に踏み出したのは、その「ふつう」から一度離れて、自分自身を見つめ直したいという強い思いがあったからです。
しかし、実際に旅に出て世界中の様々な場所を訪れるうちに、私が抱えていた「ふつう」や「当たり前」の感覚が、いとも簡単にひっくり返されていくのを実感することになります。
旅で揺さぶられた「ふつう」の感覚
旅先で目にした光景や、現地の人々との交流は、私のなかの「ふつう」を根底から揺さぶりました。いくつかの具体的なエピソードをご紹介します。
物質的な豊かさと幸せの基準
私が訪れたある途上国の小さな村では、人々は質素な暮らしをしていました。水道や電気は必ずしも安定せず、家も決して立派なものではありません。日本の基準から見れば、「豊かさ」とはかけ離れた環境かもしれません。
しかし、そこで暮らす人々の多くが、驚くほど穏やかで、些細なことにも喜びを見出し、助け合いながら生きていました。夕方になると、子供たちが無邪気に遊び回り、大人たちはゆっくりと語り合う声が響きます。彼らの満ち足りた笑顔を見ていると、これまで私が「ふつう」だと思っていた物質的な豊かさが、必ずしも幸せと直結するわけではないのだと強く感じました。私たちが普段、当たり前だと思っている「便利さ」や「所有物」がなくても、人は幸せに生きられる。この事実は、私のなかの「豊かさ」や「幸せ」の定義を根本から問い直すきっかけとなりました。
時間の流れ方と「効率」の価値
別の国では、人々の時間の感覚が日本とは全く違うことに戸惑いました。約束の時間に人が来ないのは当たり前、バスの発車時刻もあってないようなもの、お店も気分次第で閉まっていることがあります。最初はイライラしたり、時間の無駄だと感じたりしました。日本の「ふつう」である時間厳守や効率の良さが通用しない環境だったからです。
しかし、しばらく滞在するうちに、彼らの時間の流れに身を任せることの心地よさに気づきました。急がないことで見えてくる景色があり、予期せぬ出会いがあったりします。常に効率を追い求めるのではなく、目の前の瞬間を楽しむこと、人との会話を大切にすることに重きを置く彼らの姿を見て、時間に追われることだけが人生ではないのだと学びました。私のなかの「時間=お金」「効率こそ正義」という「ふつう」が崩れ去った瞬間でした。
知らない人への「警戒心」
日本では、知らない人に安易に話しかけたり、助けを求めたりすることに抵抗を感じるのが「ふつう」かもしれません。特に一人旅であれば、安全のために必要以上の関わりを避けるべきだと考えがちです。
ところが、旅先では驚くほど多くの人が、見知らぬ私に親切にしてくれました。道に迷っていると声をかけてくれたり、困っていると自然に助けてくれたり。拙い言葉でも一生懸命コミュニケーションを取ろうとしてくれる人もたくさんいました。最初は疑心暗鬼になったこともありましたが、純粋な親切心に触れるうちに、知らない人への過度な警戒心は、自分自身の可能性や出会いを閉ざしてしまうのだと気づきました。世界は、警戒するべき危険な場所ばかりではなく、信頼と善意に満ちた場所でもあるという新しい「ふつう」を知ることができたのです。
「ふつう」が壊れて、何が得られたか
これらの経験を通して、私の中にあった凝り固まった「ふつう」や「当たり前」の感覚は、良い意味で崩壊しました。それは、ショックというよりは、むしろ解放感に近いものでした。
自分の「ふつう」は、世界における無数の「ふつう」の一つに過ぎない。そして、その「ふつう」は、自分が育った環境や社会によって形作られたものだという単純な事実に気づいたのです。
この気づきは、私に以下のような変化をもたらしました。
- 価値観の多様性を受け入れやすくなった: 自分の考え方や生き方だけが正しいわけではないと理解し、異なる価値観を持つ人々や文化に対して、より寛容になり、尊重できるようになりました。
- 視野が格段に広がった: 一つの物事を多角的に捉える視点が身につきました。「なぜ彼らはそうするのだろう」と疑問を持ち、理解しようと努めるようになりました。
- 自分自身の選択に自信を持てるようになった: 社会の「ふつう」や他人の価値観に縛られることなく、自分が何を大切にしたいのか、どう生きたいのかを自分で考え、選択することの重要性を実感しました。たとえそれが多数派の「ふつう」と違っても、恐れずに進む勇気を持てるようになりました。
- 小さなことへの感謝の気持ちが生まれた: 当たり前だと思っていた日本の生活環境(安全、清潔、時間通りなど)が、決して当たり前ではないことを肌で感じ、日常生活の些細なことにも感謝できるようになりました。
まとめ:あなたの「ふつう」も旅で変わるかもしれない
バックパッカー旅は、単に観光地を巡るだけではありません。それは、自分自身の内面と向き合い、これまで信じて疑わなかった「ふつう」や「当たり前」を問い直す、自己変革の旅でもあります。
大学卒業後の進路に悩み、就職前に長期バックパッカー旅を計画されているあなたも、きっと様々な不安を抱えていることと思います。具体的な情報収集も大変でしょう。ルート、予算、安全対策、持ち物など、考えるべきことはたくさんあります。私もそうでした。
しかし、一番大切なのは、旅のなかで出会う予期せぬ出来事や、これまで知らなかった人々の暮らし、考え方に、心を開いて触れてみることだと思います。そこで感じる違和感や驚きこそが、あなたのなかの「ふつう」を揺さぶり、新しい視点を与えてくれるからです。
旅で得られる学びや内面の変化は、時に目に見えないものかもしれません。しかし、それは間違いなく、これからのあなたの人生をより豊かに、そしてあなたらしく生きるための確かな力になるはずです。
あなたの「ふつう」が、旅でどう変わるのか。それは、実際に旅に出てみなければ分からない、最高の発見の一つになるでしょう。あなたの旅が、素晴らしい経験と、新しい「ふつう」との出会いに満ちたものになることを願っています。